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文芸評論パスティーシュの見本帳(3)

(前話はこちら)
さて、もうひと世代前のみなさまが喜びそうなものといえば、「ポストモダン」。
筆者・廣野由美子さんもどうもこの時期に青春の思想を謳歌されたのかたのようで、デコンストラクション周辺の翻訳には、いやに力がはいります。決定不能がどうだの二元論がこうだのと、御託がとても長い。
そういうメインディッシュ部分は本編で味わっていただくとして、ここではさらっとラカニアン「風」精神分析解釈だけを、あっさりと前菜のごとくご案内しておきます。

ラカニアン風解釈
デイヴィッド・コリングズ(David Collings)は、フランケンシュタインの物語を、エディプス・コンプレックスを順調に乗り越えることのできなかった男の話として読む。フランケンシュタインは少年のころから、記号体系に組み込まれる学問、たとえば言語学や政治などにはまったく興味を示さず、世界の物理的な秘密を探ることにもっぱら関心を持ち、魔術的な錬金術にのめりこんでゆく。
母が死んだ直後、その喪失感を解決できないまま大学に進学したフランケンシュタインは、母と一体化する方法を学問研究のなかに求め、出産の実験に取り組むのである。どうしても母を断念できないフランケンシュタインは、母と似た女性エリザべスをその代用とすることもできず、この許嫁との結婚を回避し続ける。

 フランケンシュタインが怪物を造った直後に見た夢は、精神分析的観点から見ると、非常に興味深い。夢のなかでフランケンシュタインは、インゴルシュタットに訪ねてきたエリザべスに会い、彼女を抱きしめるが、それは岨虫の這う母の死体に変わる。悪夢から目覚めると、怪物がじっとフランケンシュタインを見ている。
これは母の代用としてのエリザべスと、母の肉体、そして怪物とが、フランケンシュタインにとって密接につながっていることを暗示する。

 このあとも、月光に照らされた窓から怪物がフランケンシュタインを見ているという場面が、繰り返し描かれる。光る窓は「鏡」を表わし、そこから見つめている怪物は、フランケンシュタイン自身の「鏡像」であると、コリングズは解釈する。怪物は、さながら鏡像段階の幼児のように、にっこり笑いながら口をもぐもぐさせて不明瞭な音声を発している。鏡に映った自分の姿を見ることは、幼児にとって、自分の統一的イメージを獲得する喜ばしい経験でもあるが、フランケンシュタインがそのとき見た鏡像は、バラバラの肉体の寄せ集めとしての自分の姿であった。つまり、エディプス・コンプレックスの克服を拒んで、あくまでも母の肉体の回復を追求し続けたフランケンシュタインは、一般の成長過程を逆行してゆくのであるが、鏡像段階に至っても自我の統一に失敗し、ふたたび根源的喪失感を経験するというジレンマに陥るのである。

 自我の統一の問題は、フランケンシュタインだけではなく、怪物の側からも追求されている。すでに人間の姿を見て知っていた怪物は、初めて水たまりに映った自分の姿を見たとき、あまりの醜悪さに衝撃を受け、自分のイメージと自分とを同一化することができない。しかし怪物は、家族や社会との関係や言語を獲得することによって、記号体系の世界に入ってゆくことを望み、そこから排斥されることに対して、苦悩するのである。
つまり、フランケンシュタインと怪物は、自分の欠落を補うべく、逆方向の道筋を辿ろうとしたのだった。
ええっと...ポストモダンっていうダジャレでして...その...あの...すいません、いろいろと
『批評理論入門』あとがきに拠れば、当初本書は「新・小説神髄」という仮題で進めていたそうです。たぶん刊行直前、坪内逍遥が筆者の枕元に立ち「ええかげんにせえよ」と罵ったのでしょう。
またごていねいにも「なぜ今フランケンシュタインをとりあげるのか」の前口上までついています。元ネタ本がフランケンシュタインで書いていたからじゃん....でも、そうバカ正直に「翻案の元ネタがフランケンシュタインだったので」とは書けないですよね、オトナの事情とかと体面上とか。

いっそ同Case Studies in Contemporary Criticismシリーズの『ドラキュラ』も翻訳・再編集し『モンスター評論理論入門』とするだの、あるいはクノーエーコの『文体練習』を新訳追加し『パスティーシュのいざない---文芸批評Ver.』とでもしたほうが、よほど気が利いていたかと存じます。(つづく)
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