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笑わせる文章のいらなくなった時代に

昔『いたずらの天才』の翻訳本が割合長く売れたことがあった。いわゆるプラクティカル・ジョーク集の類の本だ。たぶんもう30年は経たのではないかと思うが、いまだ『いたずらの天才』ほど傑作なジョーク本には、とんとお目にかからない。
おそらく冗談の通じない連中がハバを利かす世となったか、ジョークなしでも毎日が楽しく過ごせるおめでたい人が増えたのだ。
どちらの世に変わったにせよ、私のようなタイプの人間には住みにくい時流となった。

『いたずらの天才』で一躍有名になる作者H.アレン・スミスは、新聞記者あがりの作家だったように覚えています。この頃まではまだ人が文章で笑ってくれた良き時代の名残りがあったと見え、『いたずらの天才』のほかにも愉快な文章を多く残してくれています。
それらの文章群ももはや版権買取の対象にすらならないでしょう、手すさびに、H.アレン・スミスの私訳でもご披露いたします。

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しばらく前、ノーベル賞作家のジョン・スタインベックが、自分の生まれた国を改めてかみしめたいなどと言い、アメリカ横断自動車旅行のいきさつを文章にしたことがあった。途中オレゴン州の淋しいハイウェイで車が故障してしまったのだが、そのときの困惑状態を彼はこんなふうに書いた。
   …あの古くからの法則が、またぞろ働いたのだ。
   この法則によると、こっちがいちばん必要なときにかぎって町から町までがべらぼうに遠い。
のちにある批評家が、スタインベック氏はフェトリッジの法則にやられたのだ、といった。
そうではない。
スタインベック氏とべらぼうに遠くにある町との間に作用したのは、ガンパースンの法則である。
この法則によると、駐車スペースの空きはつねに道路の反対側にある。車の窓からタバコの吸いがらを捨てるだけで猛烈な山火事を起こすことができるのに、暖炉の中では、乾いた薪を山積みし石油までふりかけても火をおこすのに1時間半はかかる。よく肥えた土にまかれた草の種は肥料と水をやってもなかなか育とうとはせず、アスファルト舗装の道路へ風で運ばれてきたわずかな種は、割れ目を見つけそこに根づきはびこる。
これがガンパースンの法則である。

ガンパースンの法則がはじめて成文化されたのは『チェンジング・タイムズ』という雑誌の中で、そこではこうものものしく定義されている――<予想される好ましい可能性と正反対の事態は、.その種の偶発事が最大の困惑をもたらすような時を選んで出現する。言いかえれば、予想される好ましい可能性の最終結果は、その好ましさの程度に反比例する>
これは疑似科学的な法則であって、パーキンソンの法則やマーフィーの法則とはなんの関係もない。パーキンソンの法則は、おもに法人の世界での人事問題にあてはまるものであり、また、ミサイル技術者のあいだでよく知られているマーフィーの法則は“失敗する可能性のあることは、かならず失敗する”というものである。


ところでガンパースンの法則とフェトリッジの法則のあいだには、交通事故の過失致死に関する法律と、第一級謀殺に関する法律の関係に近いものがある。
スタインベック氏がオレゴン州のハイウェイで経験したジレンマは、ガンパースンの法則が作用した実例だ。フェトリッジの法則は、そのあとの時点で乗りだしてくる。

かりに、スタインベック氏の車が、ガチャガチャとちょうどドラムをたたいているような絶えまなく気になる騒音を発生しはじめた、としてほしい。どこからその音が出てくるのかつきとめられない上に、音はますますうるさくなる一方だ。
しかたなく、オレゴン州のハイウェイをそのままガチャガチャ走りつづけたすえ、やっとのことで町に着き、サービス・ステーションを探しあてる。ところが、そこへ車を乗り入れたとたんに、ガチャガチャ音はぴたりと止まる。整備工が車を借りブロックを一周してみても、やはりなんの音もしない。こんどは車を町の外まで出し、でこぼこの田舎道を走ってみる。それでも、カチャとも音がしない。
フェトリッジの法則の作用で起きるつむじ曲がりな現象としては、これが最もありふれた形態だろう。

この作用は実にあてになるので、わたしなどは、車がガチャカチャいいはじめると、いつもサービス・ステーシヨンヘ直行し、中でぐるっと向きを変え、熟練した整備工の存在を車が感じとるまでちょっと待ってから、そのまま家に乗って帰る――サービス・ステーションの係員に声をかけることさえいらず、これだけで故障は、直る。


フェトリッジの法則は、やさしい言葉でいえば、当然起こると思われている重要なことが、特にみんなが見ているときにかぎって起こらず、逆にとうてい起こらないと思われていることが、特にみんなが見ているときにかぎって起こる、というものである。
この結果、飼い主の前では1日に1000回も棒を跳び越える犬が、近所の人が見物にきたときにはさっぱり跳び越えない。また、両親の前では「ダーダー」と口をきく親ばか自慢の種の赤ちゃんが、友人たちが呼び集められると、黙りこむか火のついたように泣きわめく。

フェトリッジの法則という名前の由来になったのは、NBCにつとめていたラジオ放送の技術者、クロード・フェトリッジである。
1936年のこと、このフェトリッジ氏は、南カリフォルニアのサン・ファン・キャピストラーノ教会から、有名なツバメの大群の飛行を実況放送しようと思いついた。よく知られているように、このツバメたちは、毎年10月23日つまり聖ヨハネの日に教会を去り、そして翌年の3月19日つまり聖ヨセフの日に教会へ帰ってくる。フェトリッジ氏の企画は、10月23日に飛び去っていくツバメたちの激しい羽ばたき音を放送しようというものだった。
NBCは多大の努力と経費をかけ、機材と要員を現地へ送りこんだ。さて全国の聴取者がこの感動的で神秘的な出来事をかたずをのみ待ちかまえると、かんじんのツバメたちが、ただの意地悪さからかそれとも悪魔にとりつかれたのか、予定よりも一日早く出発をすませていることが発見された。
こうして早くとやにつきたがった渡り鳥の群れのおかげで、クロード・フェトリッジは不朽の名をとどめることになったのだ。


テレビ受像機も、しばしばフェトリッジの法則に作用されることはいうまでもない。
友人から、こんどテレビに出演するからぜひ見てくれといわれるたびに、わたしは内心うめきをもらす。また金がかかりそうだと予想がつくからである。友人の出るショーがはじまったとたん、ブラウン管がいかれるのだ。
ある晩、うちへきていたジャッキー・グリースンが、2、3日前に録画した彼のシヨーを見たがったことがあった。わたしがスイッチを入れると、ヒューン、ブツブツ、ポンと音がして、画面がぱっと光ったかと思うと真暗になってしまった…

こうなることは最初からわかっていたのだ。

ときにはまた、テレビがちらちらし画面に雪が降りネクタイ柄のようになることもある。そこでテレビを切り、修理屋を呼ぶ。修理屋が5キロもむこうから駆けつけてくれて、スイッチを入れると、明瞭きわまりない画像が浮かびあがる。コントラストもばっちり、こんなすてきな映りぐあいは、いままで見たこともない。
いつもこうなることに決まっているのである。
永久に果てしなく。

わたしの家は北の厳寒地帯にある。3年つづけて妻とわたしは冬のあいだ家をあけ、もっと暖かい気候のところへ避寒旅行にでかけた。いつも帰ってくるたびに、近所の人たちはわたしたちをからかう。この冬は天気がよくて暖かく、めったに雪も降らなかったというのだ。
そこで4年目の冬、旅行をやめ家にいることにした。
すると11月の末から3月までひっきりなしの猛吹雪。隣人たちにいわせると、ここ30年間で最悪の冬になってしまった。フェトリッジの法則が、気象の分野で作用したのだ。

コネティカットにいる友人は、7000ドルをかけ自宅にプールを作ったところ、夕方からあとはとても使い物にならないことがわかった。近くの林からワンサと蚊が攻めよせてくるのだ。
そこで、彼は綱戸で完全武装したあずまやを建て、中に電灯をつけ、くつろげる家具、小さなバー、それに冷蔵庫まで備えつけた。
最後の釘が打ちこまれ、最後のバスケット・チェアーが持ちこまれたとたん…蚊の大軍はそのあたりからいっせいに姿を消しその後一ぴきも見つかっていない。これまたフェトリッジの法則。

うちの近くに住んでいるある魅力的な女性は、毎朝ご主人を車で鉄道の駅まで送る。ごくときたま寝坊をし着替えの時間がなくなることがある。そんなときはナイトガウンの上にコートをひっかけ、寝室用スリッパをはいたままで駅へ向かう。ところがそんなときにかぎり、フェトリッジの法則が彼女を悩ませるらしい。
一度はハイウェイで他の車とフェンダーをぶつけあい、寝間着のままで警察に行かなければならなかった。また二度目には駅の広場で車のエンジンが故障し、スリッパをつっかけ髪にカーラーをつけたまま車の外に出なければならなかったそうだ。
最近聞いた話では、外出着のままで寝ようかと考えているらしい。

羅針盤(コンパス)には32の方位がある。つまり、グレープフルーツをスプーンですくって食べるとき、しぷきの飛ぷ方角が32あるということだ。しかし、ルイ・サトラーという化学の教授は、つねにそのしぷきがまっすぐに人間の目玉を狙って飛ぶことを発見した。
サトラー教授は、フェトリッジの法則が支配する領域の周辺をさぐりつつある。
それによると、トーストが床に落ちるときはかならずバターを塗った側が下になり、プレスしたてのスーツを着ればかならず雨が降るし、最後の一本のマッチでパイプに火をつけようとすると、かならず突風が起きるという。

フェトリッジの法則は、歯科医学の領域でも強く働いている。
わたし自身の場合を例にとると、猛烈な歯痛が起こるのは決まってどの歯医者もゴルフに出はらっている日曜日だ。
わりあい最近のことだが、週末からはじまった歯痛が、月曜日の朝になってもまだディーゼル機関車のように疼いていたことがあった。歯医者に電話を入れ、非常事態だと訴え車で歯医者へ乗りつけた。ところが階段を登る途中、とつぜん痛みが嘘のように消えてしまったのだ。
治療室の椅子にすわったときには面喰らうやら恥ずかしいやら、どの歯が痛かったのかと聞かれてもはっきり答えられない始末だ。レントゲン写真を撮っても、それらしい影は出なかった。もっとも、カメラをわたしの脳に向ければいくつかの影は見つかったかもしれない。
クロード・フェトリッジの法則にも、ちゃんと取り柄はある。腹の立つことも多いが、とにかく歯痛は治すのだから。
Harry Allen Smith, "Fetridge's Law Explained"
-----Don't Get Personal With A Chickenを私訳。一部適宜改行を挿入。

2005.03.02初出
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