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「マイクス」なんて読ませない(2)

[前話はこちら]
イギリスに帰化するならば
“to naturalize”という動詞は、イギリス人があなたことをどう思っているかのはっきりした証しです。イギリス市民権が許されるまでは、あなたは未開人とさえ見なされているのです。

私はポケット・オクスフォード辞典で調べ、251ページでnatural(na' tural)という単語を見つけました。そこではこのように説明されてます……of or according to or provided by nature, physically existing, innate, instinctive, normal, not miraculous or spirltual or artificial or conventional……つまりあなたがイギリス市民権を得るまでは、イギリス人は、ただあなたは生まれつきナチュラルとなる資格に欠けるのでは?と疑っているところに注目してください。
ポケット・オクスフォード辞典によれば、(natural)という単語はもう一つの意味もあります。“Half-witted person”―つまり“間抜け”です。しかしこの意味は、今私がご案内している視点からはずれています。私とあなたの間に不信感を育てないためにも、これについては、あまり触れないことにしましょう。

あなたが別にイギリス系の素性というわけでもでなく、イギリス生まれではない事実にうんざりしていて、くわえて、奇跡を信じ因習にこだわるタイプならば、イギリス市民権取得をぜひ申請しなさい。
簡単にいうと、市民権取得には2つの可能性があるのです。つまり市民権があなたに許可されるか、されないかのどちらかです。

許された場合は、あなたは人生に対する姿勢をかなり改めるハメになります。あなたは何ごとにつけ異邦人でないふりをし、おまけに異邦人らしき物事はことごとく見くだしなさい。
たとえば、私のイギリスの知人の姿勢をまねてみるとイギリス人らしく振る舞え、よい見本となるでしょう。
彼のことをグレゴリー・ベーカー、とでも名付けておきます。
イギリス事務弁護士であるグレゴリーは次のような階級の人々を特にひどく蔑むようです。外国人、つまりアメリカ人だのフランス人だのアイルランド人だのスコットランド人にウェールズ人、ユダヤ人、それに労働者だの店員だの貧乏人どもや専門職技能のない連中、実業家、俳優、ジャーナリストも文学者も、女性も、果ては隣の休業中の事務弁護士や金に困っている事務弁護士、裕福な事務弁護士、とにかくグレゴリー以外の事務弁護士、それから社会主義者に、自由主義者、トーリー党の革新主義者などです。共産主義者に至っては、侮辱する価値さえありません。
グレゴリーは、商売っ気旺盛だと母親を見くだし、妻は素人の地方出身だからと鼻であしらい、兄は職業軍人だが近衛連隊にも騎兵にも所属せずせめて地方師団に入隊をと思ってもそれすら叶わないからと蔑みます。
かと思えば一方で、グレゴリーは7歳の息子の鼻の形が自分に似ているからと溺愛し、甘やかしています。

また、イギリスに帰化するならば、次のような習慣は覚えておくべきです。

1. 朝食にはお粥を食べることを始めなさい。
  「朝のお粥はうまいなあ」と忘れずに言いなさい。
2. 元の同国人と必ず英語で話しなさい。
  外国語(あなたの母国語も含め)はわからない振りをしなさい。外国語の知識をひけらかすことは実に反イギリス的です。
  例外として少しばかりのフランス語ならよいでしょう。ただし、とてもフランス語とは
  聞きとれないひどいなまりをつけること。
3. 蔵書を再検討してください。
  原書であろうと英訳であろうとすべて外国の作家は取り除いてください。
  ドフトエフスキの作品はイギリスの流行作家の作品と入れかえなさい。
  プルーストの作品集は摂政時代の『インテリア・デコレーション』とかなんとか
  印刷されている本と替えてください。
  パスカルの『パンセ』は、スコットランド産鮭のように毒々しいピンク色のカバーの
  『人生や思想』とかなんとかいう書物と入れ替えなければいけません。
4. 新しい同国人に話しかけるには、いつも第一人称複数を用います。
  この点については、慎重な上にも慎重にするに越したことはありません。
  私はある帰化したイギリス人を知っていました。彼は“我々、イギリス人は”という言い回しを
  再三使いながら、若者に話しかけました。若者はわが知人の話をひとしきり聞き終えると、くわ
  えたパイプを取り、やんわりとこう言ったそうです。
  「失礼。わたしはウェールズ人でしてね」
  で、踵を返すと、歩き去ってしまいましたとさ。
George Mikes "How to be an Alien"
(Prentice Hall College Div. 2000)より抜粋私訳。適宜改行。

ハンガリーで生まれ、イギリス滞在中第二次大戦が勃発、戦禍を逃れるためそのままロンドンに滞在、戦後イギリスに帰化したミケシュ。
それでもどの著作にも必ず"me-cash"と読め!と一筆プロフィール覧に書き添えたミケシュ。
イギリスでのエイリアン・ライフをさぞ満喫した半生だったのでしょう。1987年イギリスにて残念ながらミケシュは鬼籍にはいられます。ご存命のままマークス寿子の著作をもし目にされておられたら
「オトナの国なら、株式なんていう無茶苦茶なバクチに精は出さないでしょうな。
 育ちが悪い連中でない限りは。」
などと皮肉めいた薄笑いを浮かべたことでしょうに。
(ここまで2005.05.22初出)



2005/05/22 04:40 投稿者:詰めにくい
そんなに詳しいわけじゃないんですが,前に How to be poor とかいうのを読んで面白かった記憶があります。金持ちは不幸だ,貧乏人は幸せだ,気の毒な金持ちのみなさん,貧乏人になりましょうっていう本です。東欧的といえば東欧的,英国的といえば英国的な(まあどっちでもいいですが)モノゴトを斜めから見るセンスがいいですね。


2005/05/24 01:13 投稿者:Donald Mac
さすが詰めにくいさん。面白そうな臭いのする物事には鼻が利きますね。
じつはお恥ずかしながら『How to be poor』については全文に目を通したことがまだないんです。同じ土俵で語れなくて、本当にごめんなさい――おおかたお金持ちのみなさんへ、あのテこのテでそのデメリットを列挙しているのであろうとは、察せられるのですが。

出世作が『How to be an Alien』というタイトルだったばっかりに、ミケシュのその後の著作にはことごとく『How to be~』という冠をつけられてしまっています。ちょっとamazonで調べてだけでも
How to Be a Brit
How to Be Decadent
How to Be a Guru
How to Be Poor
How to Be God
How to Be a Yank
How to Scrape Skies
How to be Inimitable
How to Unite Nations
How to be Affluent
How to be Seventy
How to Run a Stately Home
‥‥悪ガキが黒板懲罰を受けているような気になってきます。ロンドン柳の下の泥沼はかなり大きいようですね。

英語版だけでこの量です、今調べきれなかった各国語版を合わせれば、ミケシュだけでカルチャ・スクールが開校できることでしょう。トーゼン初日第一講は
 「如何にすれば作者の名をミケ“シュ”と撥音せずに読むか」
ですな。


2005/05/24 21:02 投稿者:詰めにくい
いやさすがでもなんでもなくて一冊しか読んでないのです。それも受験生のときの通信添削かなんかの問題に出ていて面白かったので,英語の勉強を兼ねて読んでみるかと買いはしたものの歯が立たず,10年以上押入れに放置していたのを30過ぎてようやく読んだという,少々みっともない読み方でした。邦訳が出ているのもはじめて知ったので早速買ってみます。
 一冊ヒットすると似たようなタイトルでシリーズ化しようというのは洋の東西を問わずあるんですね。「プロ野球を10倍楽しくみる方法」みたいに,ってこんな古い例しか思いつかないのは年のせい?
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