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「マイクス」なんて読ませない(1)

どの国でも自国がどんな風に他国の目に映っているのかは、多少なりと関心がおありなようで。
それは、いうなれば“小市民の自意識”に他なりません。
愛しき愛しきわがニッポンにおいても例外ではございませなんだようで、昔からそのテの刊行物やら音楽には事欠きません。『菊と刀』は来日することなくあそこまで調べあげたのだからスゴいだの、『不思議の国ニッポン』シリーズがいつの間にやらなんだかえらく何巻も刊行されただの、などもおそらくvol.1がそこそこ売れたからなのでしょう。尤も言わせていただければ、フランス人なんかにフシギ呼ばわりさらたかぁないですが。


The Land Of The Rising Yenジョルジュ・ミケシュ(George Mikes)にも、日本見聞記があります。『The Land Of The Rising Yen』がそれ。
かつて邦訳も刊行され、その名も『円出づる国ニッポン』。訳者・倉谷直臣さんのこの表題のつけかたからもお察しのように、ミケシュのアロニカルな文章をよく読み込んでいらっしゃる方で、日本語版は1972年発刊。当時独特の、文体に若干生真面目でカタい感じも加味され、なかなかの妙訳書ではないかと思います。
その『円出づる国ニッポン』のレポートは、一見真面目な日本文化論風ではあります…が…


(歴代トクガワ・ショーグンの奨励した)まったく無意味な儀式が、時として思いもかけぬ複雑な事態を招くことがあった、のは事実だ。
日本の偉大な文学に、47人のサムライの話がある。18世紀の恋と冒険のロマンスだ。
ある大奥の家臣が、ライバルをはずかしめようとして、ある儀式に際し場ちがいなズボンを着用するようすすめる。サムライの受けた屈辱は、耐える限界を越えたものであった。
当然、復讐ということになる。

物語は、47人の復讐心に燃えた勇敢なサムライの、かたき討ちの過程を描いている。
この恐ろしい物語が終わるまでに、47人のすべてが死ぬ。
村々は略奪され焼き尽くされる。
数えきれないほどの人々が襲撃され、拷問を受け、虐殺される。
妻は夫の戦いの足しにと、売春宿に身売りする…などなど、すべては場ちがいなズボンに起因するのだ。
「なんとまあ、ヘンな東洋人たちよ」――と私は考えていた。
◇    ◇    ◇

(マジメ・ナ・ヒトと呼ばれる人には)もう一つ特有の義務がある。
いろんな場合に、例えばビッグボスやスモールボスが出発するときにはいつも空港あるいは駅へ行かねばならない。
毎日トーキョー駅では、20人ないし30人の大集団が、毎週決まってオーサカ行――たった3時間先――しかも次の日には帰ってくるひとりのボスへ、感動的なまでの別れを告げている光景を目にすることができるのだ。みんな深々と頭を下げ、列車のあとを数歩走って追い……涙を流すかどうかまでは個人責任に委ねられるようだが。
"The Land Of The Rising Yen" Andre Deutsch Ltd., 
訳にあたり『円出づる国ニッポン』(倉谷直臣・訳 南雲堂刊 1972)を参照、適宜改行。
ちなみにこの本の挿絵はダニエル・ザボが描いています。
邦訳版は絶版になり久しく、amazonなどでもあまりでてきません。
古本などを見つけたら、お笑いテキスト好きは要チェック!の本です


『円出づる国ニッポン』についていえば、もうひとつ、気に留め読んでいただきたい点があります。
それは、原文初版が1970年刊である、ということ。沖縄はまだアメリカ領だったし、大学という大学はアンポ・トーソーで単位取得なんかどうでもよかった、ひと世代前の日本があらわに記載されているのです。
そう。
このころミケシュに『円出づる国ニッポン』で“young men”と呼ばれている人々は、今や、年金をもらいはじめたか定年退職直前か、あるいは強欲に守銭奴と化したかあるいは日本の美徳が失われたと嘆きを垂れ流して回っているおじさんたち、それはかつて自分らがクソジジイ呼ばわりしていた立場なのです。
どうだい?「タイセー・ガワ」呼ばわりされ、世間でお荷物呼ばわりされる側に回った気分は?元ガクセー・ウンドーのレンタイ諸君を謳歌したおじさんども?ふふん。
そろそろ自分のブログで
 「じつは昔、私、こっぱずかしいことしてました。
  エラソーに世事批判なんか言えたもんじゃ、ないんです。ホントは。」
ていどの殊勝なことを書いても、もう許してもらえるお年頃になりましたよ。


ところで。
ジョルジュ・ミケシュといえば、なんといっても『How to be an Alien』。ミケシュの出世作でもあります。
ご存知のとおり英米語系の大きな書店に必ずあるHumorコーナーでは、このテの表題が山ほどありますから――ユダヤ人の母親になる方法、指だけでできるスピード暗算法……などなど、タイトルを読むだけでもバカバカしくて笑える――最初にこの表題を目にした時、素直に「エイリアンになる方法」がバカバカしくもクソ真面目に書いてある本だと思ったのは、決してワタクシだけではないはず。
 「まずはじめに、絶えずヨダレをだらだら垂らせるよう練習してください」
 「つぎに尻尾を生やしてください。最初は小さな尻尾でもかまいません。
  育てるに従い、できるだけグロテスクに育てるのがコツ」
 「ひたいをなるべく前に突き出してください。あなたがハゲならば、なお有利でしょう」
てなことが延々書いてあるんだろう、と例によって勝手に想像していました。嘘です。今、勝手につくりました。すいません。



ミケシュのいうAlienとは“etranger(ええい、くそ、アクサンが出ねぇぞ)”、つまり「よそ者」「異邦人」のこと。むろん殺人動機を「尋問を受けた際には、太陽がまぶしかったから、と答えなさい」と勧めている内容でもありません。
"How to be an Alien"の邦訳は『異邦人のための心得』『英国人入門』などなど、なるほどの言葉選び。誤解の少ないなかなかの妙訳ですね。2005年現在では近代文芸社より1994年に発刊されている邦訳が、まだ入手可能なようです。
じつは『How to be an Alien』の初版は1946年。それでもいまだamazon.comのhumorカテゴリにロングセラーとして時折その表題を見かけることがある、じつに半世紀に渡り売れ続けている息の長い「ネタ本」です。
このテのお笑いテキストネタのお好きな向きには、すでに古典の部類にはいる書のひとつと数えてよいかもしれません。


『How to be an Alien』は、イギリスに亡命したハンガリー人・ミケシュが「イギリス人風に振舞う方法」を教えている、という体裁で、イギリス人って結構ヘンだよね、と随所で斜に構えコメントしているところがミソ。さすがに半世紀前のロンドン界隈噺のためややご当節にそぐわぬ箇所もありますが、まだまだここそこで
「あはは、確かに、イギリス人って、そうだよな」
と笑える本。私訳にて少しばかりご紹介します。

イギリスにおけるジャーナリズムと出版の自由について
【事実】
太平洋の一孤島キャラマックのブブラック族が、ちょっとした暴動を起こしましてね。
R・L・A・T・W・ティルバリー陸軍大尉指揮のもと、10名のイギリス人の一団と2名のアメリカの兵隊が島を襲撃し、217名の原住民の暴動常習者を投獄したそうです。おまけに大規模石油集積所を2箇所、ぶっ壊しました。
イギリス人の一団は1時間半ばかりちょいと上陸し、1名の負傷者も出すことなくに基地に引きあげました。
さて、この出来事がどう報道されたか?次の記事は、広く読まれている新聞社に掲載されたものです。

ザ・タイムズ
単なる一孤島急襲の意味を過大評価することは実に危険だが、過小評価するのは更に危険であるとここで明確に公言しておく必要があろう。我々が襲撃に勝利を得たことから考慮すると、原住民の防備に損害を与えることは至難技ではないことは自明の理である。
しかしながら、この決断を実行すれば原住民を当惑させ、騙討と同義になるだろう。捕虜にされた革命家の数は明らかではないが、216人を越え218名には達しない模様である。

国会にて
あなたが代議士であるとします――何ごとも不可能であるとは言えませんからね。
こんな演説も空前のことではありません。女王陛下配下の閣僚の一員から、次のような演説がなされることもあり得るのです。
「この場で、21ケ所の石油集積所に関する次のような情報を申しのべたい。
 本年上半期に大量の原油が、わが国陸軍、海軍により潰滅されました。
 しかしながら、イギリス海軍航空隊による流失を除けば、その流失量は前年度の同月の流失量の約3倍の半分の量、つまり、2年前の流失量の2/5の7倍半であり3年前の流失量の1/6の12倍の3/4にすぎないのであります。」
  (閣僚の席からあがる大歓声)
ここで代議士であるあなたは、つと立ち上がり、こんな質間をします。
「閣下。
 閣下は我が国の国民が、キャラマックが急襲されたのであり、ラガマックではない、という事実に疑間を抱き、案じておりますことを御存知ですか?
 1892年8月2日、今、私がなした演説に、加えるべきことは何もありません!」

イヴニング・スタンダード(ロンドン・デイリー)
キャラマック急襲についての最も興味をよぶ記事は、レジィ・ティルバリーがベイズウォーター伯爵家の五番目の子息であるという事実である。彼はオックスフォード・ブルーで鳴らしたクリケット選手であり、ポロも極めてうまいそうである。記者が彼の妻(レディ・クラリッセ、エラスーン卿の令嬢)にクラリッジズで今日インタビューした時、彼女は青いスーツに黄色の羽根つきの黒いボンネット姿であった。彼女はこう述べた。
「レジィはいつでも実戦にはひどく関心がありましたわ」それからこう言い添えた。「主人は戦争にかけては機知にとんでいますでしょう?」

イギリスでジャーナリズムの自由を謳歌するならば、あなたはザ・タイムズの編集者に手紙を書くことだってできるんです。そう、こんな風に――

  貴兄、キャラマック島急襲によせて、キャラマック島と申せば
  イギリスのすぐれた詩人ジョン・フラットが
  1693年『ザ・ゴット』という有名な詩を書いた、太平洋に浮かぶ一孤島であることに
  私は少なからず関心がある故に、申しのべたい……。

手紙を投函したその翌日、あなたは編集部からのこんな返事を読んでいるかもしれません。

  拝啓――
  氏から、ジョン・フラットの詩『ザ・ゴッド』に注意を向けるようにとの
  御手紙を頂戴して、心より感謝する次第です。しかしながら、私の見解では、
  イギリス国民の大多数の読者と報道員は共に、世に流布されている困惑に値する
  多大な誤認をしておられると思われ、この機会を利用し訂正させて頂きたい。
  貴兄御指摘の『ザ・ゴッド』はジョン・フラットが1693年に書き始めたと言え
  書き終えたのは1694年1月初句であったとだけ訂正させて頂きたい。
      敬具

もしあなたがアメリカ紙、ザ・オクラホマ・サンのロンドン特派員なら、『ヤンキーらが太平洋を制覇した』とだけ打電するだけ。
そう。ただ、それだけ。
(つづく)
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