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James Thurberのスポークスマンにあらず

またもやハウツーものネタをご紹介します。
どうせご紹介するのならば、せっかく時間をいただき読んでいただいている皆様へサービスすべきであろう、そう、このページを読み終わった途端に即役立ちつい一度は試してみたくなるような実用情報を提供すべきではないか‥‥そう思い立ち、芝刈機の操作法をご案内します。
あなたの愛家に芝生があろうがなかろうが、それは関知するところではありません。



御愛用者各位(~うちの芝刈機の“本当はこう言いたかったんだろ?”版マニュアル~)

弊社の動力芝刈機の一愛用者となられたことを、お慶び申しあげます。え?“一愛用者”はないだろう、これだけの機械を買った客にはもっと謝意を表したらどうだ、とおっしゃる?フフン!おたくの芝生が平均的マイホームよりちょいと広いというだけで、すぐにこれだ。この機械のうしろをのんびり散歩していけば、きれいに揃った緑の刈り跡の帯がすいすいできあがっていく気でいるんだ……あんた、自分を何様だと思ってるんです?こいつぁうちの芝刈機ラインナップでもいちばん安物でね、あんたのようなカモを釣りあげるため、わざわざけばけばしい色に塗ってあるんだよ。

この際だし知っといたほうがいい、大邸宅やゴルフ場にあるあの「本物の芝生」には、「本物のダークグリーンの芝刈機」磨きあげたピカピカのスチールの腰掛けの上に人が乗って動かす、あれでなくちゃ刈れないってこと。そう、50年前にうちが作っていた昔の芝刈機、頑丈で、高性能で、孫子の代までびくともしない、あれ。
ところが、当節はやりの平等主義と経済成長とやらで、あんたら向きのちゃちな機械をいやいや作る羽目になった。なにしろ、古くからの格式高いお得意様相手に本格芝刈機の修理だけやってたんじゃ、工場が遊んでしまうんでね。
でも、まあ、せっかく買ってくれたんだし、いちおう参考のために、使い方の心得を少し教えとくよ。

始動(A)エンジンが冷えているとき
1. プラグをはずす。そのブリキの小さな出っぱりには気をつけたほうがいい。急にスパナがはずれたとき、指のつけ根をザックリやられるよ。スパナもワン・セットつけておいてやったからな。鉛でできてるけどな。

2. プラグを掃除する――もしできるなら、の話
オイルをガソリンの中へ混ぜる方式なので、プラグがオイルでびしょびしょになるのは当然のこと。このエンジンには独立した潤滑系統はない。あんた、ひょっとしたらこう考えてるんじゃないかな。オイルはガソリンの蒸気といっしょにシリンダーの中で燃焼するはずなのに、煙でどうして潤滑の役が果たせるのだろう、と。まあ見てもらってればわかってると思うが、オイルは燃焼なんかしてくれない。プラグを濡らすだけだ。

3. シリンダーのいちばん下のナットをはずすと、オイルがだらだらこぼれてくる――ほらほら、まだ芝生の上へ出しちゃいけなかったんだよ。
  つぎにナットをはめなおす――おっと、あんまりきつく締めちゃだめ。シリンダーの底も鉛でできてるんだから。
  あ-あ、ネジ山をつぷしちゃった。しようがないから、いちおうネジのとまったとこでがまんするんだね。
 3a あ、いまのナットにワッシャーをはめるのを忘れたな?だからネジ山をつぶしちゃったんだ。自動車の修理工場へ行ってもそのサイズのワッシャーはないから、早く草の中をさがしたほうがいい。

4. プラグをさしこむ。こんどはほかの指に気をつけて。
  あ、ったく!言わんこっちゃない!また、おなじ指をやりやがった。
  あんまり堅く締めないようにな。これ1回ですむと思っても、そうはいくもんか、今度はずすとき、苦労するぞ。

5. スターターを踏む(べつの型なら、ロープをひっばる)。もう一度。チョークをしぼって。
  もう一度。
  もう一度。
  もう一度。
  スロットルをしぼって。
  もう一度をだいたい平均27回、スロットルとチョークのあらゆる組み合わせを試してみること。

6. ガソリンのコックが開けてないよ。バカ。

7. 5.をくりかえせ。つぎにl.-4.をくりかえせ。ブラグが前より湿ってきたぞ。

8. 5.をもう一度くりかえせ。くたびれたら、横になってすこし休もう。

9. ギアを入れたまま機械を押し、思いきり走れ。


始動(B)エンジンが熱いとき
このエンジンは、熱いままで始動させることができない。どうもオイルの蒸気と関係があるらしい。使っている途中でスコンと止まったら、もうそれっきり。エンジンが完全に冷えるまで待ち、また最初からやりなおすことになる。とにかく1秒たりとも手をはなさず、エンジンをふかしつづけること。

刃の調節
この機械の刃は、草の葉の先端をかすかに撫でる位置と、地面をぐっさりえぐる位置までのあいだの、紙一重の微妙な調節がほどこしてある。
まず、新しい電気のスィッチを使って練習をする。電灯が「入」と「切」の中間でちらちらまたたく位置が的確につかめるような腕になるまで、刃をどうこう動かすのはよしたほうがいい。とにかく、細心の注意を払い神経質に‥‥とはいわないまでも、実にデリケートに作ってやってるのを忘れるな。ほんのちっぽけな石ころがはさまっても、刃がひんまがることがある。そんなときは、この世のものとも思えぬ絶叫のようなものすごい音がするか、刃が全く回転しなくなるからすぐわかる。
そもそもうちが「ちゃんとした芝刈機」を納入している「ちゃんとしたお得意様の芝生」には、小石1つ落ちてやしないんだよ。ましてや、どこかの家のように、おもちゃの機関車や人形のブーツやプラスチックの積木や釘やスプーンが散らかったりしてるわけがない。

操作
たえず小走りをつづけなければ、この機械は操作できない。ふつうに歩く速さだと、エンストを起こす。
また覚えておいてほしいが、この芝刈機のクラッチは自動車のクラッチのように段階式じゃない。クラッチを入れたとたん芝刈機はあんたが居ようが居まいが、どんどん走りだす。だから、あんたが丹精こめているくだらないちっぽけなバラの円形花壇、あれのまわりをこいつで刈ろうなんて気を起こしちゃいけない。この機械は一直線にしか刈れないようにできている。ヘたにカーブさせようもんなら、土を掘るだけだ。だって値段が値段だもの。まさかあんた、この値段で差動装置がついてると思ってたんじゃないだろうね?

お手入れ
バネ蓋のついた小さな仕掛けがあちこちにあるが、それが注油口だ。この穴は、どんな細い油差しの口も大抵入らないようにできている。だから目をつむりそのあたりじゅう一面に油をジャンジャカふりまき、いくぶんかが中へはいってくれることを祈る。
どのみち、こんなバネ蓋はすぐにもげる。あとは、油でべとべとになった芝でふさがれた小さい穴が残るだけだ。

最後に、3つの鉄則
Golden Oddlies1 ワッシャー、バネ蓋、ナットなどをさがすときのために、磁石を用意すること。
2 ぜったいにエンジンをとめないこと。
3 芝刈り鋏を捨てないこと。
Paul Jennings "Stopping and Mowing" ---"Golden Oddlies : Methuen Publishing Ltd., 1983  を私訳。適宜改行。

このネタの作者、ポール・ジェニングスについてのオンライン情報には、本当にうんざりさせられます。
あるサイトでのポールはオーストラリアの大臣経験者だし、別のサイトのジェニングスはテキサスでIT系会社のスタッフを永年勤め続けていることを自慢げにしたため、あるいはシカゴ旅行を夫婦で楽しむかと思えば、amazon.comでのPaul Jenningsはいまだ現役で上梓し『Uncovered! 』だの『Tongue-Tied! 』『Unmentionable! 』だのお世辞にも上品とは言いがたい著書名でセールスレコードを記録中のみならず『International Handbook of Earthquake and Engineering Seismology (International Geophysics Series) 』と銘打った芝刈などというエコロジストを逆撫ですること請け合いの内容の著書もあり、現在も続々刊行し続け、バリバリ出版業に勤しんでいる‥‥ということになっています。
そんなバカな。
かように、無料でだだ流しされるオンライン情報など、半ば眉唾で調べるべきです。


よろしい。
このページを読んでいただいているあなたにだけは、真実を、お伝えしましょう。
しかも無料で。
ご通読前に眉に唾液をつけやすいよう、あらかじめ少々口腔内に水分を含んでおくと、より便利ではないかと思います。また指先はよく洗浄しておいたほうが衛生的でしょう。


ご紹介の芝刈機マニュアルの作者/ポール・ジェニングスは、Oddly Enough(オッドリー・イナフ)シリーズでまずイギリスでそして少し遅れてアメリカで名を挙げました。物書きになるまで随分いろいろと職業を変え、イギリス陸軍には長く居り中尉まで階級をあげたとのことなので、まんざら無能な軍人でもなかったようです。軍所属時代から『punch』『Spectator』などに寄稿し始めました‥‥って、いいのか?そういうの?陸上自衛官が『GON!』に不定期コラム連載するようなモンじゃないの、それって?どうよ?イギリス陸軍関係者?それも例の「イギリス式ユーモア」とかいう代物で片づくの?
寄稿が原因かどうか不明ですが――たぶん違う‥‥いや絶対違う――退役後は2年ほど広告代理店でコピーライタを経験ののち、しばらくほうぼうに書き散らす売文フリーランスでしのいでいましたが、めでたくオブザーバの編集スタッフのお声がかかり、以降編集者として活躍、たまにはコラム記事や編集記事を署名入りで載せ続けます。出世作『Oddly Enough』は、このオブザーバ紙での掲載記事をまとめたものです。
 ●ジョーク誌に寄稿開始 。
   ↓
 ● フリーランス売文業者に。まあ喰うには困らないていどには稼ぐ。
   ↓
 ●メジャー紙に迎えられ不定期連載開始。大衆のみなみなさまからも大きく拍手喝采。
  でもネタは(紙面ポリシーのせいもあり)歳経るごとにてんでクソ真面目風になりやがって、ばかやろう、しくしく。
というこの職歴を見てゆくと、ラッセル爺さんのプロフィールとどこかしらカブる気がしてなりません。尤もこちとら1989年12月に旅先を冥土へ移しておられますが、ラッセル爺さんときたら、いまだ
 「functional(機能的である、合理的である、ぐらいの意味かな?)も結構だが
  人情味を忘れちゃあ困るねえ、昔ぁもっともっと人情味があって‥‥」
てなことを達者に怪気炎吐いていらっしゃいますですよ。
そういえば、ラッセル・ベイカーも“observer”でしたな(←微妙に分かりにくい地口)。


ポール・ジェニングス。
オーストラリアやテキサスの田舎者でもなく、ナショナル・ジオグラフィックとも関係ないほうのその名が最も頻出するのは、由緒ある総合紙オブザーバーの編集者としてでもなく、歴代『Oddly Enough』執筆者としてでもなく、じつはジェイムス・サーバ(James Thurber)の作品を上手にコンパクトに説明した人、としてなのです。

He somehow gave us a sense of revelation ... He created a genre and was a giant in it.


このワンフレーズが、オンラインで最も頻出するポール・ジェニングスの正確な情報です。
ジェイムス・サーバをうまく語れた人。
ただそれだけで世紀を越えポール・ジェニングスはその名を残してしまいました。少なくともWeb上で何かコンテンツを作り、残そうとしている人々は、そう思っているようです。

だがワタクシは「芝刈機のマニュアルネタを書いた人(ほかにもトースター、自転車などもアリ)」として、ポール・ジェニングス(Paul Jennings)の名とそのネタを残しておきたいのです。
ジェイムス・サーバを誉める人は後年にもたくさん居ますし、もっと上手に表現できるかたが、これからも登場することでしょう。
しかし、バッタもん芝刈機のマニュアルを正確に記載できる人は今世紀以降おそらく輩出しないだろうと思います。その希少性と面白さこそ、ポール・ジェニングスの功績として且つ誉め上手なだけでなく本当に溢れる文才の持ち主だった記録として残しておくべきものではないかと、ワタクシは考えるのです。
2005.06.05初出
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このサイトは、かつて「Lankin' A Go! Go!」というサイト名で別URLにて公開していたネタや記事を多く改稿・転載しています。


記事末に初出年月日を記載しています。初出の場合には無記載です。
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