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最も粋(すい)な四天王(2)

(前話はこちら)
もう少し話芸に則り、その魅力をご紹介しましょう。
幸い上方落語には、1960年以降の立役者・桂米朝師匠がおられます。米朝師匠の『高尾』と比べ、いかに春團治がガサツな言葉づかいと上品な言葉づかいを丁寧に使い分けているか、いくつか並べてみましょう。
[喜六が寝起きにボヤくくだり]
●(春團治の演りかた)

夜中にフッと目ぇ覚ましよりまして
喜六「フアーッ‥‥
   あ-あ。
   かなぁんな。もう‥‥。
   今時分になったら、も、決まったよに目が覚めやがんねん。
   ううっ!寒ぅ‥‥(ぶるぶる)。
   さぶい思たら一瞬にションベンしとなって来たがな‥‥俺、いたって怖がりやねんなぁ
   ‥‥あれ、おとっついの晩やったかな、ションベンしょ思て
   裏の戸ぉ開けたら高人道が立ってけつかんねん。
   俺、ビックリして飛んで入った。
   あくる朝見に行ったら、け!おんどれのフンドシ干しといて取り入れるの忘れてんねん。ふん!
   ふぁあああ‥‥おのれのフンドシで驚いてるようやアカンな‥‥辛抱して寝てこましたろ。
(しばらく間を空け)
   ういいいいっと(身震い)‥‥あ。こら、あかん。
   ションベンが“いよいよこみ上がって”来よった。
   ‥‥難儀やな、こらもう。
   ええい!もう行てこましたれ!んまに!」

●(米朝の演りかた)
夜中にふと目を覚まします。
喜六「フアーッ‥‥
   あ-あ。かなわんな。もう‥‥。
   今時分になったら、決まって目ぇ覚めるんや‥‥これ。
   ううっ!寒ぅ‥‥(ぶるぶる)。
   寒い思たら‥‥(もじもじ腰を動かし)しとなってきた‥‥わい、情けない話、いたって怖がりやねん。
   ‥‥あれ、おとといの晩やったかな、厠行って裏の戸開けたら、
   高人道が立ってて、ビックリして飛んで逃げ帰ったんや。
   あくる朝見に行ったら、なんのこたぁあれへん、おのれのフンドシ干して取り入れるの忘れてん。
   ふぁあああ‥‥自分のフンドシで驚いとるようでは、いよいよアカンわな‥‥ええい!辛抱して寝てまえ。
 (しばらく間を空け)
   ういいいいっと‥‥あ、あかん。
   こないなると、なんや余計、しとなってくるもんやな‥‥難儀やな、こらもう‥‥ええい!もう行てまお!」
この喜六の布団の中でのひとりごとを比べても、いかに米朝の言葉遣いが丁寧で、春團治では下々のボヤキの言葉遣いの汚さがおわかりいただけないでしょうか?
じつはこのあと歌舞伎のパロディとして慇懃な言葉遣いの侍とのやりとりが出てきます。米朝は庶民である喜六の言葉遣いがキレイ過ぎ、侍との「身分階級差による会話ギャップ」の愉しみがちょっと薄れています。かたや春團治のほうは先にぞんざいな庶民言葉で皮切をしているので、本当に図々しい庶民の会話がおかしさにつながります。

もうひとつ、同じく『高尾』内にて。かんたんな言い回しの箇所ですが、その差がよく出ているところがあります。
侍から幽霊を呼び出せる摩訶不思議なお香の話を聞き、3年前に死に別れた自分の女房会いたさに(このあたりの情の深さが、この話の図々しい喜六の憎めなさなのですが)小銭を寄せ集め、真夜中に薬屋へかけこむくだりです。
●(春團治の演りかた)
アホウが喜んで帰ります。家へ帰るなり、ありもせん銭20文、懐へぽいとほりこむなり、ポイと表に飛び出しおった。

●(米朝の演りかた)
喜んで家へ帰ります。戻りますと、家の中ひっくり返し銭20文かき集め、懐に放り込みプイと表へ出ます。
「ションベン」「寝てこます」「アホウが」「ありもせん銭」など、語りの部分でも敢えて汚い大阪弁をさし挿み、それでいていざ芝居口調の箇所や仕草振舞は、他の噺家ではできないほど流麗で自然な仕草を見せる。これが3代目・春團治の魅力だと、ワタクシは思います。
普段ガサツで野暮なようだが、実は何をやってもさささっと割にひとしきり優美に嗜んでいる‥‥なんとも粋ではありませんか。
ちなみに東京では「粋」の文字をイキと読み、気っ風のよい感じや趣味のよいことを表しますが、大阪ではこれをスイ、と訓読みします。「スイなガっキゃなあ、んまに‥‥」など、誉めてるんだか冷やかしてるんだかよくわからないニュアンスでも使うようです。
なんの余芸でも表沙汰に披露せねば評価されない世知辛い昨今ではございますが、こういう粋(スイ)なかたが好き、というのも、やはりワタクシの根が東京・下町育ちのせいやもしれません。
元々綺麗な言葉遣いをされる3代目・春團治が敢えて意図して汚い大阪弁で語るのは、もちろん大人気を博した初代来の芸風を3代目なりに消化したが故の語りであることは、言うまでもありますまい。


さ、少々贔屓の長話が過ぎました。いよいよ真打登場のお時間がまいりました。
おなじみ「野崎詣」にあわせ、着席前に一礼、座って一礼。いつもの調子がはじまったようですよ。
----------------------
‥‥ええ。
‥‥ようこそのお運びで有難く厚く御礼申し上げます。
あいも変わりません、バカバカしいお噺をば、一席聞いていただきまして、すぐさま失礼させていただきます‥‥。
初出:2005.10.30



2005/10/31 16:13 投稿者:Robo
mixiから参りました、Roboと申します。
足跡からたどって参りましまた。
で、この日記、
3代目落語への愛情が感じられる文章、すばらしいですね。
というワケで、コメント残させていただきました。
今後とも、よろしくお願いいたします。


2005/10/31 21:31 投稿者:Donald Mac
なんとまあ『落語のごらく』の著者さんまでが、かような場末のブログまでお読みいただいているとは。
なんとも恐縮です。
これを機会に、どうかひとつ、またご贔屓いただければ幸甚です。
先般ご紹介いたしました『モンティ正伝』の訳者のかたも、ここ、読んでいただいているみたいです。
なんか、ほんまに“類は友をよぶか目クソ鼻クソか”になってまいりましたねえ‥‥こちら。


2005/10/31 23:00 投稿者:ニャオーレ
ワタクシもmixiの足跡からたどってまいりました。
あまりコメントは残さないのですが
Roboさんのコメントにもあるように愛情を感じましたので
ちょいと書き込んでみました。粋を愛する人はやっぱり粋ですね。

始めて春團治さんを見たのはサンケイホール。
羽織をピッっと脱ぐ姿がとってもスイやなぁと‥‥。

高尾はアルカイックホールであった文紅さん追善公演で拝見しました。
一番前で見ていたので高尾や喜六の細かい顔の仕草がみれて面白かったです。
寒がるとこなんてこちらまで寒く感じました。
あの涼しげなお顔で「ええい!もう行てこましたれ!んまに!」やて。

まだまだ初心者に毛の生えた程度なのでちょこちょこ読ませていただき
ふむふむとうならせていただきますです。


2005/11/01 00:36 投稿者:Donald Mac
>ニャオーレさん
落語の楽しみに、ビギナーも通もございませんですよ。
たのしい、面白い、と思ったことを素直に笑えることがとても大切なことだと、ワタクシは思います。
どうか落語を皮切に、演芸モノ、読み物、スタンダップコメディ、ボードビル、コメディ映画、アメリカンコラムなどなど‥‥世の中には楽しく笑えるものが、まだまだたくさんございます。
限られた生涯、いったいいくつの楽しい面白いものに触れることができるでしょう?
ご謙遜なさらず、せひニャオーレさんが面白いと感じられたことを、その全身でお楽しみください。
この拙作コラムがそのきかけになってくれたら、ワタクシDonald Macとしては、こんなにうれしいことはございません。
どうか今後もご贔屓いただけますよう、お願い申し上げますです。


2005/11/01 08:21 投稿者:橋本喬木(Robo)
アルカイックホールであった文紅さん追善公演 には、私も行っていましたよ。
一緒に「高尾」(この時はかなり久しぶりだったけど、最近「高尾」ばかり演ってはるような・・・)の世界に浸ってらした方がいらっしゃるとは、
世の中狭いですね。


2005/11/04 00:15 投稿者:Sella
はじめまして。
こちらへは、まきとうこさんのところからやって参りました。

Donald Macさんのお書きになっているとおり、春團治師匠は所作のとても美しい方だと思います。時折、喋り終えてから踊られることがありますが、そのお姿がほんとに優雅の一言です。粋ってこういう人を評する言葉なのですね。


2005/11/05 11:47 投稿者:Donald Mac
ようこそ、sellaさん。
まきさんのところからおいでになられたのであれば、「貴賤のことばの使い分け」と「じつはTPOに応じ仕草振舞をさらりと使い分けることができる」というのがいかに上品な芸であるかを、身近なところですでにご存知やと思います。
そう。
グレアム・チャップマン。
春團治と生き様こそ違えど、グレアムは6人の中でもとりわけ「スイな人だった」と、ワタクシはおもうのですが、いかがでしょう?


2005/11/11 14:08 投稿者:ゆめすけ
はじめまして。足跡を辿って参りました。
三代目、私も大好きです。
先日、三代目・米朝師と並んで聴く機会を得たのですが、
例えば20年前に比べ、米朝師は声の大きさや押しの強さは健在、
そのぶん間やテンポは見る影もなく、逆に三代目は間もテンポも
あの頃の面影を充分に残しつつ、声だけが小っさくなったなあ、
という印象でした。
何にしても上方落語の屋台骨を数十年に渡って背負ってこられた両師匠。
そのお姿をいまだ目の当たりで見られる幸せを感じねばと思いました。

河合浅次郎こと二代目春團治師匠の落語は、お弟子さんの当代露の五郎兵衛師匠が
見事に色濃く継承されていますよ。


2005/11/12 12:45 投稿者:Donald Mac
ゆめすけさん、ようこそ。
拝見するところ、随分と落語キャリア持ちでおられるようですね(病気持ちみたいですな)

2代目春團治の芸風が露の五郎風だとすると、割に芝居っ気の強い芸風だったように想像されるのですが、いかがなものでしょう?風評でうかがうトコロでは、結構クスグリの多い話芸だったようにうかがっているのですが。

米朝・春團治 両師匠ともに、ほんとうにお歳を召されましたね。当方もそれは感じております。
わたしどもは次世代の四天王だか五大将軍だか六代目三太夫だか、とにかく中堅・若手の芸風も応援してゆかなければならない世代・時代となったということではないかと思います。
それにつけては枝雀・吉朝両師のご他界は、上方落語にはイタイ損失ですねえ。

これからもぜひぜひ、レアな情報、ご教示くださいませ。
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