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最も粋(すい)な四天王(1)

「どなさん、噺家は誰が贔屓なの?」
日常下このような質問を受けることはあまりない‥‥はずですが、類は友をよぶか目クソ鼻クソか、年に2、3度ほど尋ねられます。
ここ10年ぐらいは、たんびに
「春團治」
と即答。
たいてい怪訝な顔をされます。予想していた答えと違っておられたのでしょう(たいていは米朝か枝雀と答えねばならぬお約束らしい)。あるいは
「ふーん」
と相槌が返る。たぶん春團治という噺家をご存知ないのでしょう。トーゼンこういうかたは、鶴瓶は知っていても6代目松鶴は知らない、と相場は決まっていて、そのあと落語談義に華咲こうはずもありません。
こちとらせっかく「初代の」というオチまで用意しているというのに。いまだに一度も使えていない小ネタです。


毎回毎回無益な知識ばかりのご紹介で恐縮でございますが、現・桂春團治は3代目の襲名です。お父さんも噺家「桂春團治」を名乗り、戦前‥‥といいますから、1930~からその名を馳せた実力派噺家だったようです。
「落語だけで客を集める」などということもなく、小芝居、おちゃらけ踊り、奇術‥‥客にウケるならなんでもござれのかなり多才なお父さんでした。
2代目つまり現・春團治のお父さんが夭折された折、谷崎潤一郎などは
 「これで大阪らしい大阪の落語は聞けなくなってしまった。
  もう上方落語も終わりだろう。」
というようなことを書き残しています。たいへん大阪の芸人さんらしい、クスグリてんこ盛りのサービス精神旺盛な芸風だったようです。
72回転の古いSP盤コレクターの中には、2代目春團治の収録モノをお持ちのかたが全国に複数人おられるそうです。寡聞にしてこの耳でその芸風を確かめたことは、ワタクシもございません。こういうものこそmp3なり何なりにし一般公開すべきコンテンツではないのか?なんぞ思うのですが、いかがでしょうか、コレクター各位。
mp3とかコンピュータ操作がわからないがために、やりたくてもできないかたは、ぜひご一報を。
無償にて当方、お引き受けさせていただきますですよ、はい。


初代・桂春團治は明治末期~大正にかけたいへんな人気を拍し一代をなした噺家でした。
かなり下世話で汚い大阪弁なども駆使し、早口でまくしたてる芸風だったようです。『浪花恋しぐれ』という演歌で
  ♪ 芸のためなら 女房も泣かす~
のモデルは、この初代・春團治だとか。戦後、その破天荒な生涯はストーリーづくりにもってこいだったようで、森繁久爾扮し映画も作られています。


じつは初代・春團治の前に「桂春團治」を名乗っていた噺家があったそうで、初代・春團治はこのかたの弟弟子だったとか。兄弟子春團治が噺家を廃業された際、その名をいただき、以降「桂春團治」を名乗りはじめたそうです。
まだ初代・春團治の修行時代、大ブレイクする前のエピソードです。春團治好きの中では、廃業したこの兄弟子噺家を一応「0代目」と呼んでいます。

‥‥‥‥と、ここまでは「春團治を知っている」と口にするかたの基本知識。なにせこのテのことをキチンとご紹介しておかねえと「若造が知ったかぶりくさりよってからに」と鼻白む御仁も多ございまして。ええ。まずはささっと襲名由来などをご案内さしあげた次第。
こんなこたあ『桂春團治~はなしの世界~』を読みゃあ、みな載ってることで、別に今更繰り返してご案内するほどのことじゃないんですけどね。


さて。
ようやくご贔屓の3代目・桂春團治についての贔屓の引き倒しのご紹介です。
先般、NHK大阪の公開収録のため、米朝師の実子・小米朝とおふたりで一席ずつご披露されておられる春團治の席へ、ワタクシ、久しぶりに寄せさせていただきました。
お目当ての春團治師匠‥‥。老けてました。
ええ。とても。
おじいちゃんでした。
このところ判で押したように『代書屋』ばかりされる春團治師匠でしたが、久しぶりに『高尾』を演っていただきまして、10何年ぶりかに間近で見ることになりました。CDがクラッシュするのではないかと思うほど聞きこんだ春團治の『高尾』と一字一句違わず語るのですが、なにかあのころのメリハリはありません。色男で鳴らした春團治も寄る年並には勝てず、といったところでしょうか。


『代書屋』の作者については、春團治さんは
「米朝さんの師匠・米団治さんの創作落語で、出来があまりにいいので、教わりに行った」
とおっしゃっておられ、かたや米朝さんは
「今の春團治のお父さん2代目・春團治さんが作られたネタで、私は今の3代目・春團治さんにツケてもらいまして。噺の中で出てくる“河合浅次郎”というのは2代目の本名なんです。」
とおっしゃっておられる。
どっちなんだろ。
どうでもいい作者探しですが、ちょっと気になっています。それに、このエピソードそのものも両師の互いの謙遜ぶりもたいへん好感があってよろしい。お互い芸道を精進し続けた名人が、相手の聞き及ばぬところでも敬意を払い立てあう姿というのは誠にすがすがしいものです。


3代目・春團治師匠は、噺家にしては男前、しかも高座上での立ち振舞いの優美さは上方落語家内でも頭ひとつ出ておられ、なにかにつけ春團治贔屓はそのことばかりを口にされる。いや、別に、間違っていないんですけどね、それは。
立振舞いを誉めるなら、歌舞伎役者でも誉めればいいではないか。3代目・春團治の魅力とは、立ち振る舞いの優美さではないと、ワタクシは思います。
極私的には「えげつない汚い大阪弁も、キレイな役者言葉も、キチンと使い分け演じられる」処だと感じるのです。爾来東京下町育ちのワタクシなどは、この芸の細かさこそが3代目・春團治の魅力でもあり、贔屓の根拠でもあるのです。
春團治の名は伝統的に出囃子でもある『野崎詣』と誉め相場がきますが、ワタクシは上記の理由で、3代目・春團治を始めてお聞きになるかたへは『高尾』をいつもオススメしています。えげつない庶民の言い回しも侍の慇懃無礼居丈高な言い回しも、もちろん皆が誉めて止まぬ振る舞いの巧さも、すべてこの1話で見ることのできる「オトク感満載の一席」だからです。幸い病い抜け直後の脂もほどよくのった時期のCDがビクターより発売されています。しかも3代目・春團治定番『代書屋』までついている大変お買い得な1枚。
これ聞かずして3代目・春團治をまずは語るなかれ、のオススメ・スターター・キットです。ぜひ一度ご視聴のほどを。ご不満でしたら、またアマゾンの中古セールスへ出せば、元手ぐらいはとれますから。(つづく)
初出:2005.10.30
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